有機合成化学

クロスカップリング反応

Cross Coupling

クロスカップリング反応とは

クロスカップリング反応は、有機金属化合物と有機ハロゲン化物(及びアリールトリフラートなど)が、遷移金属触媒の存在下で結合するというものです。1970年代に登場したこの反応は、数ある炭素-炭素結合生成反応の中でも有用なものとして、広く使われています。

これらは一般に温和な反応条件で進行し、高い官能基選択性を有します。このため、強塩基や高温を必要とすることの多い、他の炭素-炭素結合生成反応に比べて適用範囲が広く、幅広い合成戦略を可能にします。複雑な天然物や機能性化合物の合成にも広く用いられ、医薬品や機能性材料の工業スケール合成にも多くの利用例が報告されています。

触媒としては、パラジウムやニッケルの錯体が最もよく用いられ、通常0.1~5mol%程度の触媒量で十分反応が進行します。近年では、ハロゲン化アリール以外の基質を用いたクロスカップリング反応も数多く開発されていますが、基本形は下に示す形の反応です。

各種のクロスカップリング反応

有機金属化合物としてグリニャール試薬(M=Mg)を、触媒としてニッケル錯体を用いる熊田-玉尾-Corriuカップリングの開発が、クロスカップリング反応の始まりとされます。その後、有機金属化合物側の金属元素として、亜鉛を用いる根岸カップリング、スズを用いる右田-小杉-Stilleカップリング、ホウ素を用いる鈴木-宮浦カップリング、ケイ素を用いる檜山カップリングなどが次々と報告されました。

また、アルキン類のカップリングには、触媒として銅塩とパラジウム錯体を併用する、薗頭カップリングが広く用いられます。

薗頭カップリングの例

クロスカップリング反応の反応機構は、以下のようなものと考えられています。まず触媒となるパラジウム(0)錯体に、有機ハロゲン化物が酸化的付加し、これが有機金属化合物との間でトランスメタル化(金属交換)を起こします。ここからR-R’が還元的脱離することで目的のカップリング体が得られると同時に、元の触媒が再生されるというメカニズムです。

クロスカップリング反応の触媒サイクル

1990年代からは、アリール-ヘテロ元素結合を生成する反応の研究が、大きく進展しました。ハロゲン化アリールと、アミン類・フェノール類及びチオール類などをクロスカップリングさせるもので、開発者の名をとって、Buchwald-Hartwig反応と呼ばれます。

Buchwald-Hartwigカップリングの例

これら各種のクロスカップリング反応を行なう上で、触媒の活性は重要な問題です。空気酸化などによって失活した触媒は褐色などに変色しますので、ある程度までは見た目でも判断できます。「Pd触媒・配位子アプリケーションガイド」には高活性な触媒のカラー写真が収録されており、判断の参考に役立ちます。

鈴木-宮浦カップリングの利点

これら多彩なクロスカップリング反応の中でも最もよく用いられるのは、有機ホウ素化合物を用いて炭素-炭素結合を形成する、鈴木-宮浦カップリングです。通常、有機ホウ素化合物パラジウム触媒に対して不活性ですが、有機アミン類や炭酸カリウムなどの無機塩基を加えることでトランスメタル化が起こりやすくなり、クロスカップリング反応へと適用が可能になります。

鈴木-宮浦カップリングの例

鈴木-宮浦カップリングは水分や酸素の存在下でも問題なく反応が進行し、水を溶媒としてさえ反応が進行します。このため、湿気や空気の影響を除くための高度な実験技術や、特殊な反応装置を必要としません。また、基質となる有機ホウ素化合物は安定で長期保存ができ、廃棄物も水溶性で除去容易な上、毒性も低いなどの長所を併せ持ちます。鈴木-宮浦カップリングの優れた特性は、クロスカップリング反応が溝呂木-Heck反応と共に2010年ノーベル化学賞を獲得する、大きな原動力となりました。

鈴木-宮浦カップリングで結合させる基質としては、アリール基、ヘテロアリール基やアルケニル基など、sp2炭素を持つものがよく用いられます。ハロゲン化アルキルやアルキル金属化合物も利用可能ですが、β-水素脱離などの副反応を起こして収率が低下することがあるため、場合によって条件に工夫が必要になります。

Buchwald配位子の登場

クロスカップリング反応の触媒としては、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)(Pd(PPh3)4などの錯体が広く使われてきました。しかしBuchwaldとHartwigは、塩基性が高く立体的にかさ高いホスフィン配位子を用いることによって、クロスカップリング反応の反応性を大きく高めることに成功しました。塩化アリールや非常にかさ高い基質など、旧来の配位子では反応しにくかった基質も、これらの配位子を使えば温和な条件でクロスカップリング反応が進行します。

Buchwaldは、ビフェニル骨格を持ったホスフィン配位子が特にクロスカップリング反応に有効であることを示し、膨大な数の配位子を報告しています。それらにはDavePhos、JohnPhos、XPhosなどの名がつけられており、これはBuchwaldの研究室で開発に当たった研究者の名が取られたものです。

左からDavePhos, JohnPhos, XPhos

ただし基質によって最適な配位子は異なるため、どれが最も良い結果を与えるか、容易に予測はできません。これら多数の配位子をまとめて検討するには、触媒のスクリーニングキット(KitAlysis™)を用いて効率的に実験を進めるとよいでしょう。

また、N-ヘテロサイクリックカルベンと、ピリジン誘導体を配位子としたパラジウム錯体も開発され、「PEPPSI」と命名されています。水や空気に対して安定で、長時間空気中で加熱しても触媒活性を保ち、有機溶媒への溶解性も高いなどの特徴を有します。これら各種触媒の特長を知り、うまく使い分けることが、よい結果を得るための早道となります。

PEPPSI-IPr:空気や水分に安定で、分子間カップリング、アミノ化および分子内Heck変換反応など工業的にも有用な触媒

クロスカップリング反応関連情報

Technology Spotlights(クロスカップリング)

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スピーカー:
Professor Stephen L. Buchwald (MIT)
Dr. Spencer D. Dreher (MSD)ほか